総務大臣政務官を退任した2018年秋から3年間、自民党金融調査会の事務局長として山本幸三会長の下でわが国の金融制度改革を議論してきました。今回も2020年10月から40回を超える会合を開催し3度目となる提言をまとめ、2021年5月21日に麻生金融担当大臣に提出しました。ここで、この数年の議論を少し振り返ってみたいと思います。

 この数年で金融を取り巻く環境が大きく変化しました。送金、決済、融資や金融商品の販売などの業務はこれまで、銀行や証券といった伝統的な金融機関が事実上独占的に行ってきましたが、近年テクノロジーの発達とともにフィンテック企業が金融業務の新たな担い手として登場しました。しかしながら、従来の金融関連法制はこうした企業が金融業務を想定しておりません。こうした中で、利用者が新たな金融サービスの利便性を享受できるよう、フィンテック企業が既存の金融機関と公平に競争できる環境を整備し新規参入を促進すると同時に、こうした企業の顧客の保護も十分に図っていくため、資金決済法や銀行法等の法改正を行いました。新たに「電子決済等代行業」や「金融サービス仲介業」といった類型を設けました。

 他方で、「大手IT企業は銀行を経営できるが、銀行はオンラインモールを経営できない」との不公平性も指摘されてきました。かつて間接金融が主流をなしていた時代には、利益相反や優越的な地位の濫用により事業者の利益を害されないよう、銀行には厳しい他業禁止規制が課されていました。その懸念には引き続ききちんと配慮しなければなりませんが、しかし(諸外国には存在しない)行き過ぎた規制によって、金融機関が人材・データ・ブランド等のリソースを十分に利活用できなければ、取引先企業や地域経済の活力を損ねることにもなりかねません。こうした問題意識の下で、平成の金融ビッグバン以来の銀行制度の見直しに着手しました。

 このほか、金融インフラの充実といった観点から、総合取引所構想の実現、銀行間決済システムの改革、法定デジタル通貨(CBDC)の実証実験の開始、国際金融センター構想を後押しする規制・税制等の諸改革も実現しました。そこに訪れたのが「コロナ禍」という大きな経済危機です。バブル崩壊後の政策対応の遅れにより、金融機能の不全により貸し渋りや貸し剥がしが横行し多くの企業が倒産の憂き目にあいました。この二の舞は避けなければならないとの危機感の下、自民党の金融調査会では、既に40兆円を超える融資実績のある実質無利子無担保融資の開始、民間金融機関に対する新規融資や既往債務の条件変更の要請、政策投資銀行や商工中金による資本性資金の供給などの資金繰り支援を矢継ぎ早に要望し、これを実現してきました。政府の経済支援策に対して小出し後出しとの批判があるのも事実ですが、資金繰り支援に関してはバブルの崩壊を教訓に先手先手で施策を実施しています。
 この先もウィズコロナ、そしてポストコロナの正念場はまだまだ続きます。一社でも多くの企業を支えていくためには分厚い金融支援は欠かせませんが、政府金融と連携する民間金融機関が元気にならなければ、こうした金融支援を貫徹することができません。その意味でも、人口減少や低金利等により収益低迷にあえぐ金融機関が戦略的・主体的に経営改革に臨みうる金融制度改革を実現して参りたいと思います。